才能

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 程なくして、夏休みが始まった。既に道に植えられた木は力強く緑色をたたえている。日差しを受けた葉は生命を誇示するように輝き、地面に色濃く陰を作った。  受験前ということもあり、生徒や教師は受験勉強や高校見学に忙しく動き回り、学校では生徒のための講習も開かれていた。だが、僕はそのどれにも参加せずに過ごしていた。その必要がないからだ。勉強をしなくても最高水準の高校合格は確実と言われており、選択の余地もないためわざわざ高校に出向こうとは思わない。  しかし遊びに行く当てもなく友人たちは勉強に明け暮れているため、僕は自宅で欠伸をかみ殺しながらの生活を強いられた。宿題もほとんどないため、勉強をする必要がないのだ。入試や休み明けのテストなどはあるが、僕にとっては取るに足らないものだった。僕の長期休みはいつも牧歌的なもので、これからもこれが変わることはないだろうと思った。  そうするうちに夏休みは終わり、新学期が始まった。蝉の声は減り、徐々に吹き込む風も冷たくなってきていた。
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