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「さぁさ、ここだよ!入った入った!」
ドアの向こうから陽気な中條の声が飛び込んで来た。
「わぁ!ととっ…!」
中條に強引に背中を押され拓海が部屋に転がり込んで来る。
「おいおい…」
拓海が顔を上げるとそこには腰かけていた椅子ごとこちらを向いている男がいた。
年のころはちょうど中條と同じと言ったところか。陽気な中條とはまるで正反対な、まじめで物静かな印象を受ける。
「君が噂の拓海君かい?初めまして、ここのラボの所長をしている吉原だ。よろしく」
吉原は右手を差し出した。
「あ…、どうも」
拓海は頭をポリポリと掻きながら差し出された手と握手した。
「大した物は無いがコーヒーぐらいご馳走するよ、もちろんインスタントだがね。ちょっとそこら辺に座っててくれ」
「ぼくはいつも通り砂糖多めでミルクは無しだよー。ささ、ちょっと座ろう、拓海君」
中條に促されソファに腰かける。
周りを見渡すと意外に殺風景な部屋だ。部屋の中には小さな机と今座っているソファ。その前には大きめなテーブルがあるだけ。さしずめ応接室といった趣だ。
吉原という男が向かった部屋はちょっとした給湯室のように見える。
その給湯室の少し横に扉が見える。それは厳重な扉であることが一目で分かる。扉の横には暗証番号を打ち込むキーとセキュリティカードを読み込ませるであろう機械が見える。
「拓海君は砂糖とミルクはいるかい?」
気が付くと目の前で吉原がコーヒーを差し出していた。
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