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―――――――… 次の日。 雲一つない青空の日。 『………いってきます。』 『………………。』 出掛ける俺に、何一つ言わず雄一は俺の背中を眺めていた。 痛い位感じる視線は、心配の証。 だって、俺の手に握られているのは紅い薔薇と白い封筒。 雄一と俺にとっては、苦い思い出のあるモノ達。 【世界の始まり】を《世界の終わり》にしよう…。 数週間前に通った道を進めば、たどり着く【始まりの場所】。 あの精神病院の屋上。 相変わらず洗濯物は、干されており、風になびいていた。 母さんが自殺し、俺が刺された場所に立つ。 足の底から普通なら感じる事なんてないのに…ひんやり冷たく感じた。 自ら命を絶った場所だと思うと、少し気が引ける。 眼下に広がる【死の世界】。 少し足を踏み外せば、重力により死が訪れる。 真っ白な封筒を破り捨て、現れたの一枚の便せん。 遺書…そう呼ぶモノ。 死を覚悟し、最後に綴られた言葉程、故人の人生観を試される。 何を書いたの…? 生暖かい風が吹き、頬をくすぐり急かす。 折られた便せんを広げれば………… 『……《ありがとう》、か…』 小さく書かれた感謝の言葉。 その言葉に託された大きな想いを、俺は知っている。 思い起こされる母の最期の微笑みの意味は―…感謝。 だから、俺に穏やかに微笑みかけたのか…。 『……どういたしまして。』 誰もいない空に呟けば、届くかな…? 母からの最期の言葉を抱き締めて、俺から贈る言葉も感謝の言葉。 そして――… 紅い華びらを眼下に広がる【死の世界】へ撒いた…。 ひらひら、と舞う紅い華びらは、懐かしい風により消えていく…。 【天使が捧げた華】として…。 end
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