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『━━…天使』
それは、突然、現れた音であり声であった。
俺は、声の聞こえた後ろを振り向いた。
そこには、一人の青年が立っていた。
正確に言えば、少年から青年へと変わる境ぐらい。
やけに、冷めた瞳から俺は目を離せなくなった。
何か、全てを知っていて諦めたような不思議な瞳。
『貴方は━━…天使?』
その瞳で、そんな事言うなよ。
『……俺が天使に見えるの?』
『うんっ♪』
そいつは、今度は無邪気に笑う。
思わず、俺もつられて笑ってしまった。
『天使さん…綺麗だね』
ガシャン━━
そいつは、フェンスに手にかけた。
金属音が、小さく鳴り響き、静かに止んだ。
そいつは、不敵な笑みを浮かべている。
『天使さん…俺のモノになってよ?』
背筋が冷たくなった。
まるで、小さい蜘蛛たちが疼き回っているような気持ち悪さが、今━━━駆け抜けた。
日当たりの良い屋上に、雲の陰が写りこみ、そいつと俺の温度さを表明するかのように。
そいつは、何も迷いなんかなく言ったんだ。
子供のように、『俺が欲しくなった』だけなのだ。
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