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俺は、そいつから目を逸らしたかった。
だが、出来ない。
人は、恐怖を感じた時にはソレから目を離せないのだ。
逸らしたら…相手の渦に飲み込まれるから。
そいつも俺から目を離さない。
きっと数十秒の出来事。
だけど、俺にとっては長い時間を感じた。
バタンッ
勢いよく屋上のドアが開かれた。
それと同時に、
『上田━!』
俺の名を呼ぶ奴が現れた。
俺の事を[天使]と呼ぶ奴は、俺から現れた奴の方へ瞳を向けた。
正直…助かった。
手の平は、僅かだが嫌な汗が握られていた。
『えっ…上田!
危ないだろう!早く帰っておいで』
慌てて奴は、ドアから俺のすぐ近くまで駆け寄ってきた。
少しあたふたしていて、目には[心配]その二文字が、はっきりと写し出されている。
奴の名は、中丸雄一。
俺のよき理解者であり親友。
心配性で世話好き。
俺は、少しふて腐れながら素直にフェンスを越え中丸の方へ駆け寄る。
中丸は、笑顔で俺を迎えてくれた。
優しい笑顔…
俺、中丸の笑顔が好きなんだ。
そんな俺と中丸を見つめる奴…痛いくらい突き刺さる瞳。
中丸の温かみとそいつの瞳に俺は挟まれ、やけに気持ち悪さを感じた。
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