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学校を終えた俺は、帰り道のデパートでおはぎと漬け物を購入した。
この二つは母親の好物だったもので、いつも母親に会いに行くときは買っている。
母親の所まで駅から20分、近くもなく遠くもなく…。
夕日の光に照らされながら、電車は街から離れていった。
竹におおわれた細い山道を歩いていた。今まで何度も一人で通って来た道、父親とは決して一緒にこない、理由なんて知らなくていい。
もう夏も終わりなのに、蝉は最期の力を振り絞り鳴いている。残り少ない命の灯を必死に輝かせている。
細い道の先に立っているのは古ぼけた寺だった。
そのまま寺の裏手にまわり、水を持って俺は母親のもとへ向かった。
『瀬上家之墓』
そう書かれた墓石の前に立ち、買ってきたおはぎと漬け物を墓前に置いた。
「母さん…、久しぶり」
返事のない母親に水をかけてやりながら最近あった出来事を話していた。
日はいつの間にか沈み、辺りは暗闇に包まれていた。
「母さん、俺そろそろ帰るから…また、来るよ」
そう言って俺は母親と別れを告げた。
これが最後の別れになるなんて解るわけなかった…
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