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「華宮明奈くん!」
長い真っ直ぐな黒髪を靡かせて歩く少女に、初老の教師は少し声を大きく呼び止める。
まるでシャンプーのCMのように髪を浮かせて振り返った彼女は、誰からも賞賛される微笑をその教師に向けた。
「田中先生、何かご用ですか?」
「ん、あぁそうなんだ。すまないがこのアンケートの集計をして貰えるかな」
教師が差し出したアンケートを受け取る明奈の顔は変わらずに微笑があり、迷惑そうに歪められることはない。
渡されたアンケート用紙は少し腕に痛い位の質量がある。
「先日とったアンケートですね。200枚位ですか?」
「186枚だったか…華宮くん、頼まれてくれるかな」
「はい、任せてください」
186枚のアンケートを見ても、彼女の大きな瞳や緩やかにあげられた口元は笑顔のままだ。その様子に教師はホッと安堵をもらす。
「いやぁ助かった。一人の生徒をひいきしちゃならないんだろうが、頼りになるのは華宮くんだけだな」
「そんな事ありませんよ。ただ私、こういう仕事好きなだけですから」
褒め言葉に恥ずかしげに頬を染めて謙遜の言葉を返した明奈に、教師は好意的な笑みをつくる。教師の頼まれごとに嫌な顔一つせず、決しておごらない。正に理想の生徒である。
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