第1章

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殺されるかもしれない。  いつか、この男に。  酒は人を変えるって、昔どこかで聞いたことがあるけれど。 本当だ。 誰もがそんな言葉、なんでもないと通り過ぎるだろうけど。 あたしは、日々痛感するんだ。 酒は人を変える。 簡単に言えば、私の父親は“酒乱”というやつで。 昼間はそれが嘘かのように、借りてきた猫状態。 だけど。夜になり、焼酎やら日本酒を口に含めば、信じられないぐらいに暴れだす。 テレビ番組の内容が気に入らないだとか、夕飯時に醤油が切れていただとか。とにかくあまりにくだらないことで父は、豹変するんだ。 きっとまわりの子なんかは、ドラマでしか見たことないのだろうけど。今の時代に不釣り合いだが、ちゃぶ台を本当にひっくり返す。 料理の並んだ皿は、粉々に割れ。 味噌汁で汚れたじゅうたんの上で。母が、掃除機の柄の部分で殴られる。 こうなると。あまりの恐怖に、立ち上がることもできない。 手足が小刻みに震えて、心臓が破裂するくらいに波を打つ。 怖い。 怖い。 怖い。 頭の中で何度も聞こえる自分の声と、母の泣き叫ぶ声がきれいに重なって余計に苦しくさせる。 そして、いつも決まって。 母親に抱き抱えられながら、私と3人の姉は近くのコンビニに逃げる毎日。  私たちに、靴を履く暇なんかなくて。 冬の寒い夜でも 裸足で、逃げていた。
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