軌跡

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軌跡

「なんでもう会えないなんていうんだよ!」  青年が声を張り上げて叫んだ。 「もう時間がないから……」  青年よりも頭二つ分くらい小さい少女が呟く。 「これからって時にな…んで…」  青年は自分の目を疑った。目の前で少女の体が徐々に消えていっている。体の一部が光となって消えて、消えていった場所は光を失ったように影が薄れていく。 「ボク…本当は死んでいたんだって。ある人から聞いたの。小さい頃に消えちゃった命。でも、その人が少しだけ時間くれたの。約束…守るために」 「約…束?」 「うん」  少女が涙を流しながら笑った。 「また、会おうねって約束」  青年は言葉を失った。その約束の相手は他でもない自分だとわかったから。幼い頃、少年の時に遠くに行かなくてはならなかった少年が少女と交わした大切な約束。言葉を失った。言葉を出すことができない。ただ、涙だけが頬を伝う。 「じゃあ、私、行くね?」  少女が力なく笑う。とっても優しい笑顔。 「ど…こに…」  なんとか声が出た。でも、消え入りそうで聞こえたのかわからない。 「あなたの元に……思い出と共に帰っていく……」  少女が抱きついてきた。そして、抱きついた瞬間に少女が光となって消えた。 「う、うぁ…うぁぁぁぁぁぁぁぁ」  青年は叫んだ。力の限り叫んだ。その手に、少女の残した小さなぬいぐるみのキーホルダーだけを残して……。  月日が流れて、青年は大人となって大賞になるほどの小説を書いた。題名は『ボクと彼女の思い出』。
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