9人が本棚に入れています
本棚に追加
土曜、丘元駅前。
「竜も宏もおそいですねぇ」
私服姿の祐が一人寂しく二人を待つ。
すると、そこに風貌の悪い青年が数人寄ってくる。
「なあ姉ちゃん、金貸してくれない?」
「はい?」
困惑気味の祐。
賢明な読者なら、いやきちんとこの作品を読んでいる読者なら分かるだろうが、彼は決して『姉ちゃん』ではない。
「俺たち金に困っててさ」
「ちょっといいですか?」
「んー?」
祐はポケットの中に手を入れ、中の物を探す。
「お金があったかどうか……」
祐がいつまで経ってもポケットの中をあさるので、ついに彼らもしびれをきらした。
「なあ、急いでくんねえか?」
「はあ、ところで……」
「ああ!?」
いよいよ怒りがたまってきた様子で、返事も乱暴になった。
「僕は男ですよ。それと、ご愁傷様です」
彼らは祐の天使の微笑みに一瞬戸惑ったが、直後彼らはその笑顔の意味を悟る。
「ちょっと君達、何をしているのかな?まさか、犯罪行為じゃあるまいね」
肩に置かれた手と声に振り向くとそこには警官。
「いえ、なんにも?ちょっとカツアゲされてただけですから」
一般的に不良が大勢のさばっているのは警察に捕まらないからなのかもしれない、彼らの逃げ足は速い場合が多いようだ。
そして、ここにいた彼らもその例にもれず逃げ足が速かった。
「あ!待て!」
警官も一瞬は追うそぶりを見せたものの、すぐに無理だとわかったのか若しくは被害者である祐が気になったのか、振り向いて祐の元へ駆けてきた。
「大丈夫かい、君」
「はい、何もされてませんし、盗られてませんから」
「それじゃ、ちょっと記入してもらいたい書類があるんで、来てくれるかな?」
祐は迷った。
交番で面倒な手順を踏んだ書類手続きをしていれば、二人を待たせてしまうかもしれない。
「あのー、ちょっと用事があるんですけど……」
「そうか、それじゃ仕方ない」
どうやら警官も慣れた様子で、被害も無いので問題無いと見たのだろう。
「デートかなんかかな?彼氏待たせちゃ可哀想だもんね」
祐はまたかとばかりにうなだれた。
「僕は男ですし、用事はデートではありません。お仕事ご苦労様です」
と離れていく祐を見て警官が一言。
「そんな馬鹿な」
最初のコメントを投稿しよう!