会うは好きの初めなり

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 祐達の笑いも収まり、竜の問いに葵が宏の鳥肌を誘発しつつ答えた  「だから、もうやめろって……」  「はいはい、じゃあ私帰るね」  「帰っちゃうんですか?」  「うん、今日は疲れちゃった」  と、可愛らしく肩をすくめる。  しかし、それが普段のイメージとは合致しないからなのか祐は少し不思議な表情をしている。  そんな二人の会話の間、どこかに歩いて行く宏。  「ところでアオ」  祐が改まった態度で葵を見つめる。  「ん?」  「今日はどこに――」  ―カンッ。  「いったー」  「くだらないこと聞くな。また寒気がしたらどうする」  祐の後ろには器用に四つの缶を持つ宏が立っていた。  その内の二缶を持つ右手は祐の頭部辺りにある。  「だからって殴らなくてもいいじゃないですか!」  「悪いな。じゃあこれは御詫びつーことで」  持っていた缶のうち一つを渡すとそう言った。  「ほれっ!」  今度は掛け声と共に缶を葵めがけ投げつける。  葵に向かって投げられた缶は綺麗に掴めるわけもなく、体で受け止められた。  「それやるからとっとと帰れ」  「分かりました。帰ればいいんでしょ」  結局二人の喧嘩は起きてしまったと言えるのだろう。  葵は怒ってその場から立ち去ってしまった。  「さて、俺らも行くか」  葵が去ってからしばらく間を置いてから宏は改札とは逆、最初の待ち合わせ場所側へ歩き出す。  「どうしたんですか。そっちは戻っちゃいますよ」  と祐が注意したが、宏はお構い無しに歩き続ける。  その足は駅を出ても止まることなく更に歩き、駅から少し離れた場所にある公園に着くまで止まらなかった。  「公園にいれば半田さんに会えるの?」  やけに元気の無い竜がおどおどと尋ねる。  「まだ少し早いから暇でも潰してようぜってこと」  宏は一缶を残し、もう一方を竜に預けようとして思い止まった。  「くれないのか?」  なんとなく口から飛び出したこの台詞。  それを聞いた宏はにたあと笑みを浮かべ、缶を壮絶な速さで振る。  その後、宏が満足した辺りで缶は竜に渡された。  缶には『多炭酸』などと書いてある。  「『微炭酸』じゃないのかよ!」  「さあ!開けろ!」  楽しそうに竜のことを見つめる宏。  「喰らえ!」  缶の口を宏に向け、竜はプルタブに指をかけた。
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