会うは好きの初めなり

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 ねずみ色のロッカーに囲まれ、各々手近にあったパイプ椅子に腰かけている。  「悪いなわざわざ中入れてもらって」  と言ったのは竜。  ここは、レストランのロッカールーム、普段は関係者しか入れない場所だ。  「別に、その格好でうろついたら目立つでしょうから」  と半田。  確かに、竜の来ている服は胸元が赤黒く染みが出来ている。  竜の服装は比較的軽装で下にも染みているうえ、色彩も薄かったために余計に目立つ。  「ところで、何か用かしら?」  「え?何で」  思わぬ不意打ちを喰らった竜はしどろもどろ。  「用があったんでしょ?私に」  「あ、いや、だからその、付き、あ……」  もはや彼の辞書に冷静や落ち着くの字どころか、その類義語も全て無いようだ。  普段ならここで、祐の助け舟や宏の茶化しが入るのだが今は二人とも外している。  祐は竜の着替えを買いに、宏は突然かかってきた電話に対応しに外に出ている。  「だから、付き……」  「月?今日は曇りじゃない。曇りの日の月を見る趣味でもあるの?」  「そういう趣味は無いけど、半田さんは趣味とかは無いの?」  あまり知らない好きな人のことを聞くチャンスだ。  誰だってそう思うだろう。  だが、彼女は竜の予想を大きく裏切った。  「無いわ」  「え?無いって?」  「だから、無いの」  迷うことなく、それも趣味と言うほどじゃないというニュアンスすら感じることが出来ないくらいにキッパリした答えだった。  「失礼しまーす」  そんな威勢のいい声の直後、祐がロッカールームに入ってきた。  手には紙袋を持っている。  「こんなんでいいですか?」  紙袋の中から服を二着取りだして言った。  二着とも、竜のサイズに合いそうな物で、なかなかセンスも良かった。  「サンキュー、祐ちゃん」  と服を着替えている間に、今度は宏が戻ってきた。  「次から次へ、息が合うのね」  半田がそんな様子を見て呟いた。  「そうか?」  「そうよ」  「そういうもんか」  実の無い会話のやりとりの間にも、半田の表情は変わらずに冷たさを感じさせた。  「まあ俺らのことはいいんだよ。それより、お前学校来ないの?」  何の間も、きっかけも待たずに本題を放り投げた。
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