会うは好きの初めなり

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 「え?それで収穫は何も無し?」  「まあそうだな」  昼下がりの雑談、といった時間。  祐は私用で外し、竜に至っては無気力。  こんな理由でいつもののったりした雑談は、二人きりになっていた。  「半田はただ一言『わからない』って言っただけだったよ」  あの日……。  「学校?」  「そう学校、別に授業受けろとかいうんじゃなくて、単純にお前を心配してる奴がいるんだよ」  宏はそこでは竜を見ることはしなかった。  「そう、でも……」  「でも?」  半田は少し考え、  「わからない……」  とだけ答えた。  「なんだって?」  「ねえ、そろそろ店長が怒ると思うの。私も帰りたいし」  それはもう帰れ、と暗にしめしたのと同じだった。  「へえ?それですごすご帰って来たわけ?情けない……」  「うっさい!」  突如そこへ、肩で息をして孝太が飛込んできた。  「おい、特ダネだ。ハア……、半田が来たぞ」  「ホントか!?でかした!葵、そいつ起こしとけ」  一気に巻くし立てると、走り出した。  「おーい!」  孝太のよびかけにも応えずに宏はどこかへ消えていった。  「どこにいるか分かってんのか?」  「ホントにアホね」  二人ははたと顔を見合わせ、思い出す。  「はじめまして」  「アホだ……」  廊下で一人呟く宏。  「あれ、宏も職員室に用ですか?」  声の主を見れば、それは祐。  「いや、別にそういう訳じゃ……」  宏の視線は祐の肩を超え、下駄箱へと歩いていく人物を捉えた。  「今実はある人とあったんですよ。なんと……」  「悪い!どけ!」  祐を押し退け、下駄箱へと向かう人物を追う。  「そこの人!待ったー!」  その人物は足を止め、振り返る。  「あのー?私ですか?」  「え?」  振り向いた女性はスーツに身を包んでいた。  もちろんこの人は半田ではない。  「あ……すみません。人違いです」  「そう」  その女性は軽く微笑み学校を去って行った。  「やっちまった……」  恥ずかしそうにうつ向く宏。  しかし、宏の頬の赤らみは恥から来るものだけではなさそうだ。  「そんなところでナンパかしら?」  「っ!!」  背後からの突然の声に、宏は声にならない悲鳴を上げる。  「だ、大丈夫?」  「いや、大丈夫。で?学校に来る気になったのか?半田」
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