会うは好きの初めなり

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 「でも何であいつはあんなに頑張ってるの?」  ―ベキッ  「ん、さあ?」  ―バリンッ  「きっと事情があるんですよ。でなきゃ許しません」  ―ゴゴゴゴゴ!  いやいや、最後のはおかしい。  こんな音が実際にするはずはない。  だが、実際にそんな音が聞こえてしまいそうなほどまでに祐は怒っていた。  「ねえ祐?怒ってるのは分かるけど、いちいちお煎餅を粉々にしないでくれる?」  ―バキンッ  「普通、人を突き飛ばして謝りもせずに逃げますか?どこ見て歩いてんだよって感じですよ」  それではそこらのチンピラだ。  「ねえ」  孝太がポンポンと葵の肩を叩き、声を落として聞く。  「彼っていつもこんなに怖いの?」  「ううん、今日はちょっと疲れてるんじゃない?」  と受け答えてから目を真ん丸くして孝太を見つめる。  「女の子と間違えないんだ」  「前からあいつから聞いてたから」  納得したのか腕を組んで何度も頷く。  ―ガタガタッ  秋から冬に変わることを知らせる風が窓に強く吹き付けた。  「うわっ!寒!」  学校の屋上を木枯らしが吹き抜ける。  「さてさて、俺に用があったんだっけ?」  ともすれば、耳元で誰かが叫んでも聞こえない程の強い風が吹き荒れる。  風がおさまり、宏がつむった目を開くと、そこに彼女の姿は無かった。  などということが起きるわけもなく、半田は風に遊ばれている髪を一まとめにするべく悪戦苦闘していた。  「用ってのは、報告をしようと思ってのことなの」  髪をまとめるのを早くも諦め、用件に入る。  「学校には来ることにしたの。休みがちになるかもしれないけど」  「自主休学は?」  宏からけしかけておいたことにも関わらず、今更そんな質問をする。  「悩んでたの、親についてくか。一ヶ所にとどまるかで。うちの親は転勤族なんだけど、最近離婚ってことになって私は父親側についたの。それで、あちこち転々とするか、ここにとどまるかで悩んだ。でも……」  ここまでは饒舌だった半田は急に言葉を詰まらせた。  「どうした?でも……なんだよ」  「やっぱり止めたわ。これは言わない」  宏はしばらく不服そうに口を動かしていたが、急に声に出した。  「そろそろ戻るか、用はもう無いだろ?」  「そうね」  返事を聞くと宏は校舎の中へ入って行った。
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