会うは好きの初めなり

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 チャイムが鳴り響く、始業の合図だ。  だが、彼は教室へ走るどころか、足を向けることすらせずにいた。  それどころか彼の足は教室から遠ざかり屋上への扉の前まで来た。  彼が扉を開けるとすなぼこりを含んだ風が彼に直撃した。  開きにくい眼を必死に開き、辺りを見回す。  「いないじゃんかよー」  希望を失い、その場に座り込む。  しかし、彼はすぐに立ち上がり屋上をフェンスに沿って歩き、タンクの陰やフェンスの向こうを覗いたりしだした。  何度目かの動作の時にふと表の道路を歩く女子高校生が目に入った。   彼は何を思ったのか。  「おーい!そこの人待ってー!そこの高校生!」  出せる限りの最大の声で訴えるが、彼女が振り向くことは無かった。  数時間後……  「へえ、半田は学校に来るって?」  孝太は図書の点検を行いながら聞く。  「ああ、まだ休みがちになるんじゃないかとは思うけどな」  宏はそんな孝太の手伝いをしながら答える。  「それはよかった」  「ところでさっきの情報操作の件頼んだぞ」  「わかってるよ。だからこうして手伝ってもらってるんだろ?」  日はもはや完全に沈み、残光が空を赤く染めているのみとなっている。  この作業が始まったのは、太陽が部活に急ぐ学生達を見守っている時間である。  「でも、代わりの噂が無いと難しいと思うけどな、噂を消すなら噂って感じだな」  孝太は言いながら、残り僅かとなった点検をすべく、棚の間から台車いっぱいに図書を詰めて出てきた。  「これで最後!」  「代わりの噂なら無いこともない」  宏が呟いた。  「尾ひれをつければそれなりになると思う」  「大丈夫。得意な分野だから」  自信満々に言う孝太を見て宏は小さく笑った。  「お前は敵にはしたくないな」  その後、黙々と作業を進め、その作業が終わる頃には、窓の外に見える空に赤は残らず消え去り、漆黒だけが口を大きく広げていた。
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