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「ったく、あいつはいつもああだ!」
昼休みの怒りの残り火が家に帰ってから、めらめらと燃え上がっていた。
「あたしがなんかしようとすると『やめた方がいい』、『それは間違いだ』とか言って、そんなにあたしが嫌いかってんだ!」
―ダンッ!
葵が机を強く叩く、すると机の上からいくつかの物が落ちるが、葵はそれを拾おうともせずに机に突っ伏す。
葵が机に突っ伏したオブジェとなってはや一時間。
「葵ー?帰ってるのー?」
彼女の母親の声が階下から聞こえてくる。
次に階段を上る足音。
「あら、いたんじゃない」
「ふあ?」
「寝てたの?眠気覚ましにコーヒーでもどう?」
「うん……」
コーヒーメーカーが独特の音と匂いを発している間、葵は事のあらましを話した。
「うーん、家出じゃないのよね?」
カップにコーヒーを注ぎながら深刻そうに尋ねる。
「うん」
「そう、なら母さんは構わないけど?」
二つのカップをテーブルへと置く。
「あ、ありがと」
葵はコーヒーに直ぐ様手を付けた。
「ところで、男の子じゃないでしょう?」
「ごほっ!」
目の前で盛大にむせる娘を見るその顔は満面の笑みだ。
「げほっ……そんな訳無いでしょ!」
「ふーん、てっきりそうかと思ったのに、以外とウブだからねえ?」
ニコニコ笑いながら自分の分のカップを手に取る。
「とりあえず!問題は無いのね?」
「そうね、葵が純真無垢なことを除くなら、ね」
「母さん!」
我が娘を見守る親の眼という物はいつも笑みとともにあるものだ。
そして大概の親はこのまま昔話に入る。
彼女もこの例にもれることはなかった。
「ほんとにねえ、宏君と仲良くしてた時だって……」
「ストップ!」
母を回想に耽(ふけ)らせないために、掌を広げて声を荒げる。
「あいつとはそんなじゃなかったし、仲だって同じ高校だから今も悪い訳じゃあ……」
『ない』と言いかけるが、口をつぐむと言い直す。
「いや、仲は悪い!」
「あらあらあらあら、どうしたのかしら?喧嘩でもしちゃった?」
「母さぁん!やめてよ!」
「はいはい、すっかりませちゃって、部屋にも入れてくれないし?」
「もう!ほっといてよ!」
そう言うと葵は自らの部屋へと戻って行った。
「怒られちゃった……」
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