誤解から出た真

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 「面白い人ね、あなたのお母さん」  半田がアオの家から出た頃には辺りは真っ暗になっていた。  「そうかな?」  「そうよ、お父さんの方も理解があるし。じゃあ、明日から荷物運んでいいのね?」  二人の足音だけがコツコツと聞こえる。  不意に足音の片方が止まり、それに合わせるように少ししてからもう一方も止まる。  「でも、なんか、こんなに簡単でいいのかしら」  「え?何?」  「いえ、なんでも。ここからは一人で大丈夫」 「そお?」  二人が立っている道はまだまだ暗い道が続いている。  「あまり遅いと二人を心配させるでしょう?」  「それは別に……」  まだ何か言おうとするアオに半田は指を一本向けて、  「しつこい女は嫌われる。ってね」  そう言うと少しだけ妖艶な笑みを見せた。  「それじゃあまた明日ね、アオ」  「え……うん!」  暗闇の中に足音は一つだけになった。  「こんにちは」  アオが玄関を開けると、半田がいくつかの荷物を持って立っていた。  「おは……よ」  血圧の低そうな寝惚けた声で対応するアオ。  「もしかして、寝てたの?」  「ん、さっき起きたよ」  半田は黙って時計に目を移す、針は既に11時を越えている。  「もう昼だけど」  ―パァンッ!  アオは急に自分の顔を両手で挟むようにひっぱたいた。  その音と行為に対し、半田は驚きからか、体を大きくのけぞった。  「えと、大丈夫?」  「え?ああ、眠かったから」  その声はいつものアオのものだったが、半田はまだ目を丸くしている。  「入っちゃってよ」  「こういうときは何て言うのかしら、お邪魔します?お世話になります?」  「ただいま!」  アオが声を上げる、ただアオは家の中に向かって言ったのではなく、半田に向かって言ったのだ。  「とかでどう?」  「流石にそこまで図々しい真似はしないわよ。お世話になります。にしとくわ」  なかば苦笑いで半田が言う。  「そう、二階の一番手前の部屋ね。私の部屋の隣だから」  「お世話になります」  「よし、後はこれを運ぶだけだな」  額の汗を拭い机に向かうアオの父。  「すみません、手伝ってもらって」  「いいんだよ。母さんそっち持ってくれるかい?いちにの、さん!」  関本夫妻により最後の荷物が運び入れられると、半田の引っ越しは完了した。
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