誤解から出た真

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 ―ピーン……  空気の張りつめる音というものを聞いたことがあるだろうか?  実際は空気の張りつめる音などがある訳もなく、全く別の音がそう聞こえるものである。  兎にも角にも、半田の耳にはその音が聞こえていた。  それというのも彼女の目の前にあるプリントのせいと言えよう。  先ほどまではカツカツと字を書き進める音が響いていたが、途中で手詰まりを起こしていた。  らちがあかないと悟ったのか、席を立ち荷物をあさりだす。  「学校だ……」  探していた何かは学校にあるらしい。  彼女が向かっていたプリントが英語の宿題であるため、探し物は英和もしくは和英辞書だろう。  半田は、部屋を出て葵の部屋に向かった。  といってもすぐ隣だ。  「ごめんなさい、辞書を借りたいんだけど」  そう言って部屋に入るが葵はいない。  ぐるっと部屋を見回してみたようだが、やはりいない。  半田はふと視線を止めた。  その先には写真立てがひっくり返って落ちている。  半田はそれを拾いまじまじと眺める。  「写真立て?」  その写真立ては実に質素な物で木の縁と辛うじて立つような支柱があるだけだった。  どうにも女子の部屋にあるものとは言えないだろう。  半田はもう一度部屋を見回す。  部屋の中には女の子らしさを感じさせる物が男らしく置かれている。  半田にはこの写真立てがどうにも納得いかない様子だ。  何度も向きを変えたり、机に置いてみたりと見方を変えている。  その時だった。  その時と言うのは机に置いてじっくり眺めている時だ。  「これって……」  写真立てを手に取ると、今度は写真立てに飾られている写真を凝視した。  写真に写っているのは人物だ。  その人物をしかと見つめ、何か考え込んでいる。  だが、悪事はいつかはバレる。  今回はそれが、その最中に起こった。  「何してるの?」  半田の背後からアオの声。  だが、その声質は単調で無機質、どちらにしろアオの声ではなかった。  「落ちてたから拾って、気になるから見てたの」  半田は弁明とも取れる真実をただ正直に話した。  一方最後の一言からアオの顔は下を向き握った拳は震えていた。  「……て」  「はい?」  「出てって!荷物まとめて出てけー!」  葵の迫力に押され半田は何も言えなかった。
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