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秋の澄んだ青空と紅く色付く木々。そんな美しい光景を、机に着きながら見ることが出来る、不真面目な青少年憧れの座席。
その座席に座る彼の顔は、窓の外の景色とは対称的に曇っている。
「なんでこうも平和かねー」
決して彼は争いを望んでいる訳ではないのだろうが、高齢の人が聞けば間違いなく『戦争を知らない最近の若者』と軽蔑されるであろう。
「やめなさいよ、そんなこと言うのは」
「そうですよ、平和はいいことです」
「…………」
ここは、どこにでもあるような県立高校の一教室の中。
彼らは今年新入生として迎えられ、慌ただしくも爽やかな日々を過ごしてきた。
「だって物足りないんだもーん」
「何が物足りないんですか?っていうかまだ食べるんですか?」
さすがに、持参の弁当に加え、購買で買ったパンふたつにオレンジジュースを制覇したばかりの彼の胃袋が物足りないのではないだろう。
「祐ちゃーん!違うでしょ?こういうときは青春が足りないに決まってるじゃない!」
その元気さはどこから来るのか、まったく理解に苦しむところではあるが、彼は刺激を求めていることを周りは理解出来たらしい。
「決まってるんですか?まあ暇ですけど」
「まあ、たしかに最近暇よねぇ」
「でしょ?でしょ?暇でしょ?」
仲間を得て、さらに活気付く少年。
しかし、盛り上がりを見せる一方、一人だけが静かに読書に励んでいる。
「って、コラァ!そこのメガネ!参加しろよ!」
と読書中の彼の手から本を奪い取る。
「こら!返しやがれ!」
「いやだね」
彼はなんとも憎たらしい顔を作り、眼鏡の少年を挑発する。
「馬鹿じゃねえの?」
なんとも冷静に対応され、挑発は意味を成さなかった。
「俺がお前に負けるとでも!?」
いや、冷静ではないようだ。
「二人ともいい加減にしてくださいよ」
まるで少女の様な見た目の少年が二人の乱闘を見て、二人を牽制する。
「そんなに暇なら青春らしいことに情熱をあげれば?」
畳み掛けるようにこのメンバー唯一の女子が口を挟む。
こちらは本当に少女だ。
「そうだ。暇なのはお前自身のせいだろ」
眼鏡の少年は乱れた服を丁寧に直しながらそう言った。
「もっと、具体的にぃー」
少年は机に突っ伏したまま、さらに我儘なお願いをする。
「例えば、恋?」
それを聞きわずかに震える少年。
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