会うは好きの初めなり

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 「ほ、他には?」  明らかに動揺が見てとれるが、誰一人として追及しようとしない。  「というより暇ならきちんと部活に来いよ」  眼鏡の少年の一言に一同が『忘れてた』といった顔。  「忘れてたのか?だいたいお前らは……」  ―キーンコーンカーンコーン。  彼の説教を食い止めるようなタイミングで昼休みの終りを告げるベルが鳴った。  その直後に次の授業の担当教師が教室に入ってくる。  それを境に賑やかだった教室は慌ただしい空間に変わった。  おおよそ生徒が席についた事を確認し、口を開いた。  「出欠取るぞー、相田ぁ、岩田ぁ、江ノ本ぉ……古山ぁ」  「うぃす」  先程の眼鏡の少年がぶっきらぼうに返事をする。  教師の方もそれを気にしない様子で点呼を進めている。  「坂本ぉ」  「はい」  と丁寧に返事をしたのは例の少女風の少年。  「関根ぇ」  「あ、今日は関根さんおやすみです」  とその後ろの席の、これまた先程のグループの少女が答える。  「おお、そうか、サンキュー関本」  この教師は大分フレンドリーな空気で授業を進めるタイプのようだ。  「森岡ぁ、森岡!」  ビクッと動き、眠りから醒めたのは例の少年だった。  「はい、元気です」  寝惚けた彼の発言に教室のあちらこちらで笑いが起きた。  「森岡、それはないだろ」  教師でさえもあきれた顔だ。  「それじゃあ今日の授業を始めるか。まずは今日も元気な森岡に問題を解いてもらおうか。森お……」  窓辺の彼の席へと視線を移した教師の眼には、深く長い睡眠の旅をしている彼の姿が映ったはずだ。  「相田、変わりに頼む」  もはや打つ手なしということなのか、彼は起こされる事なく授業は進んだ。
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