会うは好きの初めなり

4/21
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
 「……それじゃ特に連絡は無いから。起立、礼」  担任の号令に礼をする者しない者、簡単に済ます者など様々だが、顔を上げると散々になって行く。  「やったー!帰れる!」  大きく伸びをして、爽やかに教室から飛び出そうとする。  しかし、何かに腕を取られ、それはかなわなかった。  「っと、帰さねえぞ」  少年の腕を取ったのは、眼鏡の彼だった。  「祐ちゃーん、アオー助けてー」  「残念だったな、もう二人とも部活に行ったンだよ」   彼の黒縁が鈍く光った。  「久しぶりですね?竜がここに来るなんて」  「こいつが自分で来ると思うか?」  「祐ちゃーん、酷いんだよ宏ったら」  ここは演劇部兼文芸部の部室である。  どこから持ってきたのか、職員用デスクの上には、ペンや原稿用紙が散らばっている。  壁にある棚にはたくさんのファイル。  演劇関係の本もあるが、道具は見当たらない。  他の部屋にでもあるのだろう。  「あれ、葵は?」  眼鏡の少年改め、宏は部室の中を見回して言った。  「アオならトイレとかで」  真面目そうな少年、祐が返事をする。  「ふーん、まあいいか。とりあえず、活動くらいしとかないとまずいので、ネタでも考えようと思う」  「はんたーい」  とこの仲良しグループの中で一番明るく、なおかつ一番付き合いの浅い少年、竜が意義をとなえる。  「竜の意見は却下。でテーマだけど、何にするか……」  「ごめんごめん、遅れちゃったよね?」  と部室に入ってきたのはアオこと葵。  「今テーマ考えてんだけど、良い案無いか?」  「テーマ?んー、すぐには思い付かない」  「やっぱり……」  祐が割って入る。  二人の視線を浴びながら祐は言った。  「恋愛なんかが分かりやすくていいですよね。特に悲劇。最近、流行りみたいですから」  言ってから少し目線を動かす。  「恋愛か。確かに悲劇が流行ってるよな」  「そうね」  と二人も同じように一点に視線を集める。  「なあ竜」  宏が代表して声をかける。  「何?帰っていいとか!?」  純真無垢な子供のように目を輝かせる竜。  「ちげぇよ。あのさ」  そこまで言ってから他の二人に目で合図を送る。  三人は声を揃えて言った。  「竜の好きな人って誰?」
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!