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「……それじゃ特に連絡は無いから。起立、礼」
担任の号令に礼をする者しない者、簡単に済ます者など様々だが、顔を上げると散々になって行く。
「やったー!帰れる!」
大きく伸びをして、爽やかに教室から飛び出そうとする。
しかし、何かに腕を取られ、それはかなわなかった。
「っと、帰さねえぞ」
少年の腕を取ったのは、眼鏡の彼だった。
「祐ちゃーん、アオー助けてー」
「残念だったな、もう二人とも部活に行ったンだよ」
彼の黒縁が鈍く光った。
「久しぶりですね?竜がここに来るなんて」
「こいつが自分で来ると思うか?」
「祐ちゃーん、酷いんだよ宏ったら」
ここは演劇部兼文芸部の部室である。
どこから持ってきたのか、職員用デスクの上には、ペンや原稿用紙が散らばっている。
壁にある棚にはたくさんのファイル。
演劇関係の本もあるが、道具は見当たらない。
他の部屋にでもあるのだろう。
「あれ、葵は?」
眼鏡の少年改め、宏は部室の中を見回して言った。
「アオならトイレとかで」
真面目そうな少年、祐が返事をする。
「ふーん、まあいいか。とりあえず、活動くらいしとかないとまずいので、ネタでも考えようと思う」
「はんたーい」
とこの仲良しグループの中で一番明るく、なおかつ一番付き合いの浅い少年、竜が意義をとなえる。
「竜の意見は却下。でテーマだけど、何にするか……」
「ごめんごめん、遅れちゃったよね?」
と部室に入ってきたのはアオこと葵。
「今テーマ考えてんだけど、良い案無いか?」
「テーマ?んー、すぐには思い付かない」
「やっぱり……」
祐が割って入る。
二人の視線を浴びながら祐は言った。
「恋愛なんかが分かりやすくていいですよね。特に悲劇。最近、流行りみたいですから」
言ってから少し目線を動かす。
「恋愛か。確かに悲劇が流行ってるよな」
「そうね」
と二人も同じように一点に視線を集める。
「なあ竜」
宏が代表して声をかける。
「何?帰っていいとか!?」
純真無垢な子供のように目を輝かせる竜。
「ちげぇよ。あのさ」
そこまで言ってから他の二人に目で合図を送る。
三人は声を揃えて言った。
「竜の好きな人って誰?」
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