会うは好きの初めなり

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 「……なんで?」  「いるんでしょ?好きな人」  「顔が赤いですよ」  「ま、バレバレってこった」  じりじりと迫る三人から逃げようと、竜は椅子に座ったまま地面を蹴った。  「あ」  ―ガターン!  結果は勿論転倒。  「うわっ!大丈夫?」  「た、たぶん」  竜は葵に返事をして立ち上がり頭に手をやる。  「よし、じゃあテーマは『恋』で来週までにネタを書き上げてこい。解散!」  それだけ言うと、宏は一人でとっとと出ていき、それを追うように祐と葵も続いた。  「電気消しますよ」  ―パチン  竜は一人残された。  「『恋』かぁ」  「『恋』ねぇ」  「いきなりどうしたんですか?」  はあ、と溜め息をつく葵の顔をを祐がうかがう。  「あ、いや。そう、全然ネタが思い付かなくて」  「そうですね、確かに難しいです。あ、じゃあ僕ここで」  祐は二人に別れを告げ、別の道を進んでいった。  二人に?  そう、ここにはもう一人、今日はあまりに無口な宏がいるのだ。  「ねえ、今日はやけに静かじゃない?」  「ん」  「んって何よ……ったく」  まだまだ愚痴が続くはずだったが、それはそこで止まった。  宏が葵の両肩をがっちり押さえていたから。  「え?な、なに?」  暗い夜道、一組の男女、そしてゆっくりと動き出す男の口元。  「実はずっと前から、葵のことが……」  二人の間の緊張はピークに達し、遂に……  「いや、違うな。これじゃあつまらないか」  コロッと態度を変え、宏は何か考え出した。  「え、え?い、今の何よ?」  「告白シーン」  そっけなく言い放たれたその言葉には、一つ間違いなく含まれている意味がある。  「告白じゃないってこと」  「当たり前だろ?」  「三年前なら喜んだけどね」  はきはきと恥ずかしげもなく言ってのける。  「つーか、二年前付き合ってたよな?」  「まあ一応」  「心配すんな。お前と付き合うのは、もうごめんだからよ」  「殴るよ?」  拳を強く握り締め、宏の眼前に出すが、その拳は小さく迫力はまったくなかった。  「で?さっきのは何よ?」  「いや、ネタの確認」  「呆れた。普通女の子にそんなことする?」  「俺はお前を『子』だとは思えないし、『女』としても見てない。じゃあな」  宏は葵を見ることなく十字路を横に折れ曲がり歩いて行く。  「じゃあな」
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