会うは好きの初めなり

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 「はあ、くだらねぇ。俺、図書室行くわ」  「ん」  誰が返事をしたのかは分からないが、三人は丁度口に何かを含んでいるらしく、宏もそれを見てためいきをつきながら歩いて行った。  「でも、好きなら告白すればいいじゃないですか?」  「ちょっと祐、それは直球すぎるでしょ」  「そっかー直球かぁ」  と、葵の言うことは聞いていなかった様子の竜。  「ちょっと駄目よ、竜。告白は変化球じゃなきゃ」  「変化球?」  「そう、最初は別の話から入ってそれとなく伝えるの」  竜に告白の仕方を説く葵だが、祐も果敢に割り込む。  「いいえ!竜は変化球使える程の技術は持ち合わせてません。直球しかありません」  「馬鹿ねぇ、直球は球威が無きゃ無意味。このへたれにそんな球威は無いわよ。だからこそ変化球でいくのよ」  「中途半端な変化球は遠回しすぎて伝わりませんよ」  「直球は引かれるわよ!」  「大体変化球使えるようなら自分で対策練れます。それができないようなまぬけにできるのは直球です!」  「うじうじ悩むような軟弱の直球じゃだめだってば」  「ちょっと君達……」  はっ、と我に返った二人の横にはこれ以上無いまでに沈む竜がいた。  「どうせ俺には球威も技術も無いですよ。ええ、そうですとも。ええ、へたれです。まぬけです。軟弱ですよ」  「ち、違いますよ。つい本音が出ただけです」  「それフォローになってないんじゃない?」  「あー、いや、普段の竜を見てるからこんなこと言うんです」  喋れば喋るほどに墓穴を掘る祐だった。  「酷いもんだな」  あちこちに染みや破けた跡のある本を手に呟く男子生徒。  その横には宏がいた。  「どうでもいいが、俺に愚痴るな」  「だってこれとか酷いだろ?」  彼が突き出した本はページの中程まで破れたところをセロハンテープで修復されていたのだが、何しろセロハンテープは劣化が激しいため黄ばんでいた。  「それはどうでもいい。訊きたいことがあるんだ」  「何だ?」  手にしていた本を棚に戻すと宏に向き直った。  「五組の半田彩ってどんな奴だ?最近学校来てねえらしいけど」  「半田ぁ!?あいつはマズイって!好きになるのは他の奴にしとけって!」  「そういう意味じゃねえよ。けど、そんなにヤバい奴なのか?名前訊いただけなのに」  それを受け、彼の顔は曇った。
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