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「優?もう朝礼終わったよ」
はっとして顔を上げると、咲が不思議そうにこちらを見ていた。
その、平穏な日常の風景にほっと力が抜けていくのを感じ、慌てて足に力を入れた。
そして、半ば緊張しながらも舞台の上に視線を送ると、もうそこには誰もいなかった。
優は咲と菜々と共に、足早に教室へと戻るために校庭に出た。
「この学校、去年まではおじいちゃん先生しかいなかったのにさ、今年は若い先生が意外と多いね。
滝沢ちゃんといい、さっきの原先生といい、どうしたんだろう」
何気なく菜々が言った言葉に、思わず身を強張らせる。
原 涼。
彼は何か違和感があった。それは、あの眼に他ならない。
「原先生さ、何かちょっと…怖い感じしない?」
無意識に出た言葉は、二人の注目を浴び、それから驚く事に賛同が得られた。
「ああ、カウンセラーだからじゃない?観察眼が凄いっていうか、何もかも見透かされる感じがするような、さ」
「うん、ちょっと冷たい感じがするけど、でもそれも格好良いよねぇ」
後者の言葉に少し違和感を感じる。
「……格好良い?」
「うん。何かミステリアスだし、白衣と眼鏡が似合う美形だし」
「菜々、もしかして…」
「良いよねぇ。白衣と眼鏡の組み合わせ!」
菜々は眼鏡フェチであり、白衣フェチであった。失念していた…。
そうか。確かに格好良いともとれる容貌をしていた。
しかし、優にはそんな生易しいものには思えなかった。
ただ感じたのは、他ならない恐怖だけ。
無機質であり空虚なあの眼は、彼女へは不安とおぞましさしか与えなかったのである。
思い出してしまい、ぶるりと身体を震わせた。
隣にいた咲が驚いて優を覗き込んだ。
「あれ、寒い?」
その声も優を安心させるのには足りなく、彼女は俄に血の気の引いた顔色で漸く答えた。
「……うん、少し風が」
季節遅れの桜は、風にのって
ひらひら ひらひら
つかの間の生命の栄華を
儚く散らす
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