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陽の暮れかかった夕方、人気のない校舎の一角にあるカウンセラー室で、二人は親しげに会話をしていた。
「まさか、久しぶりの再会がここでなんて、夢にも思わなかったよ」
苦笑を滲ませながらも、どこか嬉しそうに言うのは、滝沢だ。
「まあ、これも何かの縁だろう。よろしく頼むよ、先生」
一方、原は至極落ち着いた口調で応える。
今はあの無機質な眼はしていなく、どこか懐かしそうに目を細めていた。
滝沢は原との再会が余程嬉しいらしく、人懐こい笑顔でしきりに世間話に花を咲かせる。
その様子を見て、原は安心したように微笑み返した。
「その様子じゃ、随分良くなったんだな。
最近、あの夢はもう見ないかい?」
途端に滝沢から笑みが消えた。
「……ああ。ついこの間までは見なかったんだけど、最近になって……」
「見るのかい?」
「……あいつがあんな事を聞いたりするから……」
ボソボソと言うのも原は聞き逃さず、滝沢の言う"あいつ"の存在を問う。
すると、いくらかばつの悪そうに、しかしそれでも彼は答えた。
「佐野っていう子なんだけど、赴任初日にある質問をしてきたんだ。
"滝沢先生のご両親は今何処にいるんですか?"ってさ」
「それはなんというか…随分的を射ているね。
彼女がまさかタクの過去を知っているはずがないんだろう?」
「まあ、それは間違いなく知らないと思う。
でも、それからというもの、話す機会があればいちいち探るような事を言ってくるんだ」
「探るような事?」
「そう、はたから聞いていれば何ともないん事だけど、俺にとっては特別な意味合いを持つ事を、さ」
「それは例えばあの質問のような?」
「……どうしてだろう?
いちいち触れられたくない領域にいつの間にか入ってくるんだ。
知られるなんて、そんな事あるはずないのに」
「それでも、彼女は確かに触れてくるんだろう?」
「だから佐野とは、あまり話したくないんだ。
佐野といると、せっかく癒えかけた傷が再び疼きだす」
「……そう。
不眠ではないかい?なんなら、知り合いに睡眠導入剤を処方してもらうけど」
滝沢は力なく首を振った。
そして、疲れたような笑みを浮かべた。
「どうしても眠れないようなら頼むよ。
でも今はいらない。多少のアルコールで事足りてるから」
「深い眠りは怖いかい?」
「…………」
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