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「負けたよ。まさか、数学教師相手に論理を展開するとはね。全く、畏れ多いよ。
しかし──」
滝沢は一度言葉を切り、真っ直ぐ純を見据えた。
「部活の新設、特に"探偵部"なんて、新米教師の僕に力添え出来るかな。
君たちには何か策があるのかい?」
その、的を射た疑問に対して、今度は優が不敵な微笑みを浮かべた。
「私たちに抜かりなんて言葉は存在しないんです。
こちらの資料を申請時に提示さえして頂ければ、万事巧く事が運ぶと請け負いましょう」
それは一通の白い封筒だった。
中身を見てみると、簡潔かつ説得力の強い"探偵部"という部活動の意義がつらつらと綺麗な筆跡で書かれている。
滝沢は呆れ半分感心半分でそれを読み終わると、深く頷いてみせた。
「分かった。なるべく早く交渉を終わらせるから、今日はもう帰りなさい」
5人は嬉しそうにお互いに視線を交わし合い、満足そうに帰宅していった。
その一部始終の様子を誰にも気付かれないように窺っていた小谷は、話が成立したのを聞き咎めると、スッと目を細めた。
「……またとんでもない事を……」
小さく口の中で呟くと、何事もなかったように仕事に戻った。
*
翌日、5人は滝沢に放課後教室に残るように言われた。
皆で雑談をしながら待っていると、10分ほどして滝沢がやって来た。
「君たちは、一体何者なんだい?」
開口一番にそう言うと、部活動の申請が受理され、めでたく"探偵部"が成立した旨を伝えた。
皆が喜ぶ中で、優と純はシタリ顔で笑った。
「ただの平凡な高校生ですよ。
ただし、人より少し異なる位置にいるというのは真実ですが──先生の疑問は中間考査で晴れると思いますよ」
謎めいた言葉を追及する気にもなれず、滝沢は本題へ移った。
まず、二つの用紙を机に広げた。
「このB5の用紙にはそれぞれの氏名と学年、クラスを記入してくれ。
もう一つのA4の用紙には、役職を決めて書き込んでくれ。
今日中に出来るか?」
それからはテキパキと迅速に事は進められ、ものの15分で全ては終わっていた。
部長は口も巧く一番頼りになる純が、副部長にはサポートの上手な咲が、書記には字の達筆な優が、会計には記憶力と数学がずば抜けて得意な彰とその補佐として菜々が任命された。
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