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随分と古めかしい校舎が異様な荘厳さを持って建っている。
さすがにコンクリートで造られているものの、もともとは白かったであろう壁はくすんで茶色がかっている。
しかし、それはしっかりと建っていた。
古いが、全く朽ちてはいない。
校庭には砂が敷かれ、時折吹く風に砂ぼこりが舞い上がる。
そして校庭を囲むように桜の木が植えられていた。
桜は華やかに咲き誇り、その花びらで校庭を淡く染めている。
樹齢の長そうな大木が校舎にもっと威厳を持たせているようだった。
人気のない校庭に、一人の男がゆっくりとした歩調で入ってきた。
歩みを速める事もなく、校庭の中心までゆっくりゆっくりと歩いていく。
ちょうど中心まで来た時、男は校舎を見上げた。
そして、笑う。
「もうすぐだ」
男が重々しく呟いた。
その声は楽しそうで嬉しそうで、それでいて── 暗鬱だった。
彼はその呟きを合図に軽く声を上げて笑い出した。
「そう、もうすぐだ。もうすぐ ──…」
彼の言葉は突然吹き荒れた風に掻き消された。
しかし、それに構う様子はない。
ただ男は笑う。
暗鬱に、しかし確かにそこに喜びを込めて。
ふと、彼は再び歩き出した。
向かうは、鬱々としたモノが渦巻く入り口へと。
ゆっくり、ゆっくり。
男が消え去った校庭で、桜が風に吹かれて花びらを散らす。
耳を澄ませば、何処からか囁きが聞こえてきた。
── 始まるね
始まるよ
もう百三十年過ぎてしまったもの。
もう止められないよ。
止められないね。
誰だろう。
誰だろう。
生け贄になるのは、誰だろう ──……
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