第二章 探偵部

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      -2- 中間考査も無事終わり、ようやく一息がつく頃。 滝沢はなんとなく一人になりたくて、人気のない4階の奥まった廊下に足を向けていた。 職員室は授業のない教師が数人残っているため、完全には一人になれない。 一人きりになれる場所で、ぼんやりととりとめない思考に耽りたかったのだ。 比較的ゆったりとした足取りで階段を上り、廊下を進んでいく。 次の角を曲がれば、目的地に着く。 誰もいないと思い込んでいた滝沢は、人の気配にギクリと歩みを止めた。 そこには、なるべくなら会いたくない人物、優が窓から僅かに身を乗り出していた。 窓のさんに手を掛けてじっと外を見つめていた。 窓から入ってくる暖かい風がその漆黒の髪をフワリと揺らす。 と、次の瞬間… 「──え?」 滝沢は自分の目を一瞬疑った。 あろうことか優の上半身がぐらりと深く沈んだのである。 その光景に一つの惨劇を予測して、戦慄した。 滝沢は直ぐに走り出していた。 一気に距離を縮めると、優の腕を乱暴に掴んで力強く引いた。 小さな悲鳴とともに軽々と窓から離れた優は、よろけて滝沢の胸に倒れ込んだ。 一瞬、二人の動きが止まる。 先に動いたのは優の方で、慌てた様子で離れると、驚いた表情で滝沢を見つめた。 「先生、どうしたん……」 「バカ野郎!お前、何してんだよ、危ないじゃないか!!」 「……何って……?」 その言葉にぽかんとしてそう問い返す優に、滝沢は怒りを覚えて再び怒鳴る。 「今、窓から落ちそうになっていたじゃないか!どういうつもりでそんな事を……」 滝沢の言葉は途中で途切れた。 訝しげに見る滝沢の視線のその先では、優が面白そうに笑っていたのだ。 「……何が可笑しいんだ?」 「だって、先生って早とちりすぎなんですもん。 どうせ私が自ら落ちようとしていたと思ったんでしょう?」 「……違うのか?」 「違うも何も、私はただ木の枝に止まっていた鳥を触ろうとしただけだもの」 「鳥ぃ?」 「そう、鳥。それだけですよ。自ら死のうなんて私は思ったりしないもの。絶対にね。 それに、いざとなったら、自分の身ぐらい自分で守れるわ」 優は確かな自信を込めてそう言った。
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