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中間考査も無事終わり、ようやく一息がつく頃。
滝沢はなんとなく一人になりたくて、人気のない4階の奥まった廊下に足を向けていた。
職員室は授業のない教師が数人残っているため、完全には一人になれない。
一人きりになれる場所で、ぼんやりととりとめない思考に耽りたかったのだ。
比較的ゆったりとした足取りで階段を上り、廊下を進んでいく。
次の角を曲がれば、目的地に着く。
誰もいないと思い込んでいた滝沢は、人の気配にギクリと歩みを止めた。
そこには、なるべくなら会いたくない人物、優が窓から僅かに身を乗り出していた。
窓のさんに手を掛けてじっと外を見つめていた。
窓から入ってくる暖かい風がその漆黒の髪をフワリと揺らす。
と、次の瞬間…
「──え?」
滝沢は自分の目を一瞬疑った。
あろうことか優の上半身がぐらりと深く沈んだのである。
その光景に一つの惨劇を予測して、戦慄した。
滝沢は直ぐに走り出していた。
一気に距離を縮めると、優の腕を乱暴に掴んで力強く引いた。
小さな悲鳴とともに軽々と窓から離れた優は、よろけて滝沢の胸に倒れ込んだ。
一瞬、二人の動きが止まる。
先に動いたのは優の方で、慌てた様子で離れると、驚いた表情で滝沢を見つめた。
「先生、どうしたん……」
「バカ野郎!お前、何してんだよ、危ないじゃないか!!」
「……何って……?」
その言葉にぽかんとしてそう問い返す優に、滝沢は怒りを覚えて再び怒鳴る。
「今、窓から落ちそうになっていたじゃないか!どういうつもりでそんな事を……」
滝沢の言葉は途中で途切れた。
訝しげに見る滝沢の視線のその先では、優が面白そうに笑っていたのだ。
「……何が可笑しいんだ?」
「だって、先生って早とちりすぎなんですもん。
どうせ私が自ら落ちようとしていたと思ったんでしょう?」
「……違うのか?」
「違うも何も、私はただ木の枝に止まっていた鳥を触ろうとしただけだもの」
「鳥ぃ?」
「そう、鳥。それだけですよ。自ら死のうなんて私は思ったりしないもの。絶対にね。
それに、いざとなったら、自分の身ぐらい自分で守れるわ」
優は確かな自信を込めてそう言った。
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