第二章 探偵部

7/16
前へ
/168ページ
次へ
その言葉と自分のたちの悪い勘違いにしばらくじっと複雑な表情で優を見つめていた滝沢は、苦いため息の後に力なく微笑んだ。 「……そうか。乱暴な事をして悪かった」 「いえ、良いんです。 それじゃあ」 優は踵を返して教室とは反対方向へ歩いて行こうとした。 ここは教室とはかなり離れていて、滅多に人は来ない場所だ。 だからこそ、ここで一休みしようとしていた事を思い出して、滝沢は慌てて優を呼び止めた。 何事もなく振り返る彼女に、滝沢は急いで歩み寄った。 「どうしてこんな所にいるんだ? 今はまだ授業中だぞ」 「…………」 優はやっぱりという表情をして目を泳がせて、少しの間考え込んだ。 そして小さくため息をついてみせる。 「授業が始まる前に具合が悪くなったので、保健室に行こうとしたんです。 余り前を見ないで歩いているうちに迷ってしまって、しばらく歩いている内に具合が良くなってきたので、外の空気でも吸おうと窓を開けたんです。 そうしたら、鳥がいて……」 そこに滝沢が勘違いとともに登場したわけだ。 その説明を聞いても、まだ残る疑問を問う。 「ああ、そうだったのか。 もう大丈夫なら、教室に戻ったらどうだ? そっちは教室とは逆の方向だよ」 「でも、一応保健室に行かないと……」 優が口籠る。 不審に思いかけたが、ようやく優の意図が分かって苦笑した。 「そうだよな。 保健室カードを貰わないといけないもんな。 引き留めて悪かった」 具合が悪い、又は何か怪我をして授業に出られなくなった場合、教室に戻る際に『保健室カード』という、黄色い名刺大の大きさのカードを持って行かなければならない決まりになっている。 それがなければサボタージュしたのと同義になってしまうのだ。 滝沢はてっきりそのまま優が行ってしまうのかと思っていたのだが、彼女は反対に滝沢の方へと歩み寄ってきた。 驚いていると、彼女は淡々とした口調で言った。 「先生って、どうして日本に戻ってきたんですか? ご両親がアメリカにいらっしゃるなら、そのままアメリカで過ごしていても良かったのに。 実際、ずっとそこにいたのでしょう?」 「……どうしてそんな事を聞くんだ?」
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加