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少女が一人、桜並木を歩いていた。
漆黒の髪が背まで伸びたのを頭の高い所で一つに結い、少女が歩く度にサラサラ揺れる。
少し長めの前髪からは、白く美しく整った顔立ちが覗く。
唇は紅を差したように赤い。
何とも儚さを感じさせる少女だった。
少女はベージュを基調としたブレザーを着ていた。
胸ポケットには笹をイメージしたSマーク。
ベージュの下地に焦げ茶のチェックの入ったリボンとスカート。
センスの良さと高級感溢れるその制服は、笹原学園の高等部のものだった。
笹原学園は今年で百三十年の歴史を持ち、高い偏差値をも持つ名門校である。
生徒は誇りを持ち、礼儀正しく且つ明るいがモットーである。
小中高大一貫であるので、外部からの生徒が少ない上、才能を育てるのに効率的な少人数制取っている。
一昔前までは生徒が多かったらしいが。
笹原学園の生徒という事で頭の良さと才能を保証されているも同然なのである。
その制服が良く似合う少女は、ふと呼ばれた気がして足を止めた。
振り返ってみるが、そこには誰もいない。
ただ桜の並木道が続くだけだ。
少女の胸にふと不安が過った。
理由もなく、原因も分からない。
しかし、急に心の底から涌いて出たようにその不安は押し寄せてきたのだ。
まるでこれから良くない事が起きるような。
まるで不吉な出会いをするような。
少女はそれを振り切るようにまた歩き出した。
気のせいだ。
そう自分に言い聞かせて、歩き続ける。
春の暖かい風がゆったりと桜並木を駆け抜けていった。
少女は知らない。
それは正に灰色の夢へ踏み入れる前兆だったのだという事を。
少女は知らない。
自分の勘はどうしようもなく当たるという事を。
*
佐野優(サノユウ)はクラス発表用紙に目を走らせ、俄に嬉しそうに笑った。
軽い足取りで階段を昇る。
五階まで上がると、階段に一番近い教室へ入る。
そんな優に明るい声が四つ掛かった。
「おはよう。全員一緒だぞ」
四つの声の中でも一際元気でやんちゃな声、尾形彰(オガタアキラ)が嬉しそうに笑った。
「良かったね、みんな別れなくて」
髪を肩口で切り、ふわりと可愛い女の子、板倉菜々(イタクラナナ)はがのんびりと言う。
「それにしても、高等部って中等部と全然違うよね」
ウェーブのかかった髪を下の方で二つに結い、可愛いというよりは美人の部類に入る少女、岡崎咲(オカザキサキ)はハキハキした口調で周りを見回しながら言う。
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