宝物

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「…しゅん…」 「しゅん!」 あおいがいきなり起こしてきた 「んん?なんだ?」 まだ外は薄暗い 一体なんだ? 「逃げよう。ここは危ない!」 「な、何が?!」 ズズゥン… 遠くで地響きがする 「まさか!」 上着をあおいに着せ、僕達は走った 「しかし逃げるってっ!どこに?!」 息があがる 「はぁっ…まっ…待って…苦しいよ…」 ドサッ 「っ!あおい!!」 「あぁぁあ!!」 あおいには赤ちゃんがいるのに… 僕はなんて事を! 僕はとにかくあおいを抱き上げ走った 「しゅん……痛いよ…」 「大丈夫だっ!もうすぐ!川だから!」 静かな川原 町の皆もあとからここに集まった あおいを医者に診てもらった僕は、気付いていた あおいを抱き上げていた腕と体に血がべっとりとついていた 「あおいちゃん!大丈夫だからね!」 「頑張って!」 「これは…」 周りのオバサンたちはあおいの手を握り励ましていた 「流産しています」 医者のこの言葉によって、みな黙り込んだ 「…すみれは…?」 ぽつりと、あおいが謂った 皆泣いていた 僕は、泣けなかった ただ、苦しかった その日、町はなくなった
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