雲影

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  それでも影は、俺の走りを嘲笑うかのように道を移動する。 俺は自棄になってその影を追った。 エンジン音がギューンと加速し、110キロに到達すると、ついに俺は影の真下についた。 影が俺の前を走っていたため、目の前の道路が暗かったのだが、今は明るさを増している。 俺はブレーキをかけ、端に車を停めては降りた。 瞬間、ぶわっと強い風が吹き、空へと消えた。 風が吹くのと同時に、太陽にかかっていた影の正体、雲が太陽から離れ悠々と空を泳いでいた。 俺はその雲を仰いだ。 まるで雲は優しく笑うかのように、雪をちらちらと降らせた。 だが、太陽の熱で俺のところに到達する頃には雨にかわってしまった。 ポツポツと降る雨。 俺は雨と共に笑みを零した。 ピリリリ―― 「はい」 『遅い!今どこにいるんだよ』 「ごめん、ちょっとさ」 『あ?』 「なんか、空が幻想的なんだよ」 『…大丈夫か?』 「何が」 『頭だよ。なんかお前、気持ちわりぃ』 「失礼なやつだな」 『ははっ。それより早く来いよ!』 「あぁ」 友人からの着信をきり、もう一度空を仰ぐ。 先ほど、俺と遊んだ雲は既に分裂してしまい、まばらな形にかわってしまった。 次第に雨も止んでいく。 俺はその景色を網膜に刻みこみ、記憶として脳へ留めた。 愛車に乗り込みもう一度窓から空を見、アクセルを踏み込んではその場をあとにした。 今日は、どこへでも走って行けそうな気分だ。 END.
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