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「どこから来たの?」
「向こう。」
「どこへ行くの?」
「さあ。取り敢えずは進行方向、かな」
「む……。はぐらかさないでちゃんと答えてよ。」
掴み所の無い答えに焦れた少女はふて腐れて林檎の様に頬を膨らませた。
青年は困ったように苦笑して窓枠に頬杖をつく。
先程から列車は一面の菜の花畑の中を走っている。
半開きになった車窓から春の穏やかな陽光が差し込む午後、規則的に揺れる列車の振動が心地良い。
少女は床に届かない足を椅子の下でぶらぶらと持て余しながら、車内を歩き回っているうちに偶然出会った、たゆたうような不思議な微笑を浮かべる青年を凝視する。
外の風が仄に土と花の香りを含んで吹き込み、少女の麦藁帽と色素の薄い柔らかな青年の髪を弄んで往く。
「何処から来たのかなんて覚えて無い。何処へ行くのかも分からない。行きたい所も……特に無い。私はどうやら不老不死のようだから」
少女は目を瞬いた。
「信じられない?」
「当然。本当にそうだとしたら通りすがりの私に話すわけないもん」
その答えに青年は微かに笑い声を洩らした。
その声は光の粒の様に明るく、何処か悲しげだった。
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