さ よ な ら

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『俺は、ユキに会えてよかったよ』 ああ そうやってトドメをさすんだ。 私は、泣きすぎでぐしゃぐしゃになった顔を、見られたくなくて タカに背を向けた。 『でもユキは、そうじゃなかったかもね』 違う。 そんなことない。 『ユキをこんな、いっぱい泣かせて。俺みたいな最低なやつはやめちゃいなよ』 違う。 タカ。 いなくならないで。 『やだ…』 私は背を向けたまま、 ただひたすらやだって、 言ってたと思う。 『俺さ、昔ラジオで、あ~なるほどって言葉聞いたんだ』 背を向けてぐずる私の頭をなでながら、タカが言った。 『…どんな言葉?』 私は喉からやっと声を絞り出した。 『世の中には、忘れてしまってもいいことと、忘れてはいけないことがあるんだって』 私はやっと、 涙を拭いて、タカの方をみた。 『忘れてはいけないことは、人にしてもらった嬉しいことと、人にしてしまった嫌なこと。忘れてもいいことは、人にされた嫌なことと、人にしてあげた嬉しいこと』 タカはそこまで言って、一息ついた。 『だから、俺はユキにしてもらったこと、ユキをこんなに傷つけてしまったことは忘れない。俺は、ユキにされたことと、ユキにしてあげたことは、忘れるよ。』 静かに、タカは続けた。 『ユキ、いっぱいいっぱい、ありがとう』 また、 涙がでた。
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