あまりにも小さな物語

3/20
前へ
/24ページ
次へ
この声の主は分かっていた。 人はそれを「犬」と呼んでいる。  ポチやらクロやら変な名前を付けて、それは大層可愛がっているらしい。私はそんな人達の気が知れない。  よだれはダラダラ垂らすし、汚らしいし、大きくて恐ろしいし。あんな動物の一体どこが可愛いのか――私は絶対に近寄りたくはない。  そして、その犬とやらに現在進行系で爆発的な怒りを覚えている。 せっかくの安眠を妨害するなんて、飼い主の仕付けはどうなっているんだ。 文句の1つでもぶつけてやりたいけれども、それは無理だし、犬は怖いから諦めよう。  声がしていた方向に私は背を向けた。 ちょっとばかり自分が情けなく感じた。  もう一度寝ようと努めたが、目が覚めてしまい寝付けそうにもなかった。  果てしない空を見上げてみると、太陽が斜め上に見えた。 どうやら、午後らしい。つまり私は午後まで寝ていたということになる。 寝過ごした感じもするが、たいした問題ではない。  私が寝過ごしたところで誰も迷惑はしない。それに自慢じゃないが、私は夜行性だ。 夜に真価を発揮するタイプ。だから、昼間の間に寝て、夜に備えるだけのこと。別に変なことじゃない。 友達にもそんな人が多いもの――これは言い訳じゃないよ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

616人が本棚に入れています
本棚に追加