あまりにも小さな物語

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緩やかな坂道を上りきると高校の校門が見えた。 私は歩幅がひどく小さいので、ここに辿り着くまでに結構な時間を必要とした。  少し遠くから学校の方の様子を窺った。 校門からは生徒が途切れることなく出てきた。 その様子を見て、戸惑った。  私が校門から正々堂々と入ったならば、また異常な視線を浴びせ掛けられるに違いない。  誰だってじろじろ見られるのは気持ちの良いことではない。それに私は人込みというもの自体が好きではなかった。 人がごちゃごちゃしている所に行くと、私の体から変な物質が分泌され脳みそはすぐにふやけてしまい、頭がクラクラしてしまう。だから、人込みは不得意だ。 まぁ、犬の遠吠えを聞くよりはよっぽどマシだけどね。  校門を避けて、校舎の周りを歩いてみた。すると、学校の敷地の中に入れそうな道を見付けた。  そこの地面には芝生が生えていて、「この上を歩いてはいけないよ」的なオーラが漂っていたので、ここを道と呼んでいいのか迷った。  躊躇したのは一瞬だった。幸い私の姿を見ている人はいなかったので、芝生の上をずけずけと歩いて学校の敷地内に入った。 綺麗に切り揃えられた芝生も私にとっては十分な道に成り得た。  私はこの高校のグラウンドがお気に入りの場所なので、真っ先にグラウンドを目指した。 お気に入りの理由は「梶さん」という人物を見ることが出来るからである。もちろん無料で。 早足でグラウンドを目指した。
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