あまりにも小さな物語

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目の前に立った彼の腕が私の頭に伸びてきた。 私は抵抗もせずに彼に自分の頭を委ねた。  男の子らしい大きな手の平は私の小さな頭を包み込む。 運動をした後の手の平は土で汚れていたが、別段気にならなかった。  大きな手の平は意外にも優しく頭を撫でた。 頭を撫でられた私は、顔に笑みが広がるのを抑えられなかった。  私は元々、頭を撫でられると幸せになる質だったが、彼に撫でられると必要以上に幸せを感じてしまう。 私にとって彼は幸せの形そのものに近かった。  このように彼から幸せを貰うのは私だけではないらしく、私が彼に会いに学校にやってくる来ると、彼の周りにはいつだって沢山の友達がいて、誰もが同様に笑顔を浮かべているのだった。  彼自身は気付いてないらしいが、彼は万人にもれなく幸せを振り撒く力の持ち主のようだ。  他人を無意識のうちに笑顔にしてしまう能力。なんて素晴らしい力なんだろう――と、思う。 私にそんな力があったならば――と、少し彼を妬みたくなる。  あいにく、彼のような能力を持ち合わせてはおらず、むしろ、時たま人を不快にさせてしまう能力を持って生まれた自分が憎かった。  彼のような存在になれたらどんなに素晴らしいことか。  彼の大ファンだが、彼を正面から直視すると自分の醜さが浮き彫りになるようで、憂鬱になった。 だけど、そんな灰色の気持ちも、明るい笑顔を見ることですぐに忘れられた。
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