第4回 (2008年6月3日)

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どれくらいそうしていたのか、やがて弟が帰ってきた。 バタバタとシャワーを浴びる音が聞こえてくる中、俺はまだベランダで茫然としていた。 しかし、いつまでも茫然としている訳にはいかない。   とりあえず、俺は着替え始めた。   そのうちに、よく知らない親戚が迎えに来て、その車に乗り込み、病院へ急ぐ。   よく知らない山道を走り抜けた。 曲がりくねった山道で、一つ一つ大きく体を揺らされる度、一つ一つ祖父の記憶が蘇ってくる。 よく   (6月4日17時02分) 祖父の納棺が終わり、広島から急ぎ戻った下の弟を迎えに行ってきた。 納棺の時も、悲しいはずなのに、涙の一つも出てこなかった。 病院に駆けつけた時もそうだった。 病院に駆けつけた時も、納棺の時も、上の弟は泣いていた。 だけど、俺は涙も、嗚咽も出てこなかった。   俺は、喜怒哀楽の哀が欠けているのだろうか。 いや、きっと欠けているのだろう。 悲はあるのに、哀がない。 こんな祖父不幸な俺に、この場に居て祖父を見送る資格があるのだろうか。 下の弟を迎えに行く間も、納棺の後、母が俺に弟を迎えに行くよう言ったのも、体よく俺を追い出す為だったのではないだろうかという考えが、頭から離れなかった。
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