第二章……『死亡時刻のお知らせ手紙1』

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――閑話休題。 まあ、そんな涼音であるわけだが、いくら危ういとはいえ良い子であることに変わりはないわけで。 涼音は無邪気な笑顔を浮かべながら、アズに問い掛けた。 「そいえばアズちゃんは悪魔さんなのに、日本語で喋るんだねっ!もしかして、日本語は全ユングの共通語なのかなっ?」 「いやそれはないだろ……」 ついさっきまでシリアスな物思いに耽っていた灯志郎だが、ついツッコンでしまった。いや、ツッコまずにはいられなかった。 さすがは天然、まさか日本語=ユング共通語説を提唱するなんて。 一般人には、まず辿り着けない発想だ。少なくとも、自分には無理だ。 ――とはいえ、確かにそれは灯志郎も気になっていた。 アズは別の世界から来たと告げておきながら、意思の疎通に関しては一片足りとも不備を感じさせない。 あまりにも自然で気にならなかったほどだが、言われてみれば確かに、それは異常な事ではないのか。 まさかホントに、日本語がユングにおける共通語であるはずもないし。 「確かに、気になるな……アズ、どういうこと?」 説明を求める灯志郎に、アズは再び尊大な仕草で頷きながら答えを告げる。 ――『穴』には普通、能力付加の機能があり、その機能によって得られる力を『フィルタ』と呼ぶ。 これは例えば、『火』のフィルタを得られる穴を潜った(くぐった)クローズは、自在に火を操れるようになるといった感じだ。 しかしその力は大したものではなく、またクローズは種族としての力があるため、フィルタが使われることはあまりない。 ただ、それにはいくつか例外がある。 代表的なものは、どの穴にも標準的に発現するといわれる、『言語理解』と『常識学習』のフィルタだ。 その内容は、読んで字のごとく。 つまり、あらゆるクローズは実界に来た時点で、日本語を含む全世界の言語と、その世界における一般常識を学んでいることになる。 とはいえ、それを活用できるほどの知能があるのかはまた別の問題ではあるのだが。 ――以上が、アズが日本語を介して意思の疎通を取れる理由。 これは余談だが、フィルタが発現する理由はわからない部分が多い。 世界が、矛盾を広げないために自防行動を取っているという説が有力だが、詳しいことに関してはまったくの未知。 少なくとも、アズの住んでいたユングにおいては、だが。
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