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「……涼音、早く起きるんだ。アズが泣く前に、早く!」
涼音が寝てしまったのは、自分の話が退屈だったからだと思ったのか。
アズは俯いて、ちょっと本気で泣きそうだった。
「あ、アズ、大丈夫!アズの話はおもしろかったしわかりやすかったよ!あの話で寝られる涼音がおかしいんだ!」
呼び掛けても揺すっても起きる気配のない涼音はいっそ無視して、アズのフォローを試みてみる。
「うぅ……ホントですか、トーシロー?」
涙目で見上げてくるアズ。
「…………………はっ!」
――いかん、何を見惚れてるんだ僕は!?
知らずアズから視線が外せなくなっていた灯志郎だが、あの可愛さを前にして正気でいられる男は中々いないと思う。
――ただ、困ったことに。
「やっぱり……私の話は、おもしろくなかったですね……」
アズについ見惚れてしまって、質問に答えるチャンスを失ってしまった。
結果アズは、いつもよりダウナーさ三割増な空気をまとい始めてしまい……なんかもう、本格的に収集つかない気がするんだが、どうなんだろうか?
「――い、いや、そんなことないって!アズの話はおもしろいよ!ねえ、涼音?」
もう半ばヤケクソ気味に、未だ寝息を立てている涼音に話を振る。
心境的には、投げっぱなしというやつである。
――果たして涼音はといえば、
「んゅぅ……渋いよ……格好いいよ……グミおじさん……」
よくわからない夢世界に行っていた。
いやもう、幽体離脱して別のユングに行ってるのかもしれない。
グミおじさんて、なんだその怪奇生物は。
そんなお菓子テイストなおじさんは嫌だな……などと、灯志郎がもはや現実逃避気味な思考を繰り広げていると。
「トーシロー、もう良いです……」
先程より少し柔らかい声音で、アズはそう告げた。
「え?いや、でも……」
結局、何一つフォローできてないんだけど……
そんな灯志郎の思いとは裏腹に、アズは小さく、けれど確かに笑って。
「トーシロー、お前……優しい、です」
そう言ってアズは、少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「…………」
――い、いや、その。
そんな事、急に言われても困るっていうか、その、くすぐったいっていうか……
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