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「それで、その悪魔が僕の家に何の用なのさ?」
何気なく、灯志郎としては当たり前の問いをしただけなのだが、これは少々異常だった。
悪魔という非日常的な、それも基本的にはこちらに危害を加えることを前提としたモノを目前にして、それも、正真正銘アズは本物の悪魔だと認識していながら、しかし灯志郎は、当たり前のように自然に接する。
そのようなこと、真っ当な神経の持ち主なら出来はしまい。
この辺りが、彼が友人から得られる評価……『男にしては可愛い顔のくせに、順応力あるっていうか、図太いっていうか……ズレてる?』などと言われる所以で間違いはないだろう。
その性格が幸か不幸か、会話を円滑に進ませる。
「私は……私が、トーシローの家に来た目的は、」
ゴクリ、と灯志郎の喉が鳴る。やはり、少なからず緊張はしているようだ。
いきなり『魂下さい』なんて言われたら、光より早く逃げなきゃいかんし。
「……魂下さい」
「すいません無理です」
逃げるより早く謝ってしまった。
「……冗談」
「――ごめん、ちっとも笑えない」
本気で笑えない冗談に頬を引きつらせる灯志郎に、アズは不満そうにしながら、
「……トーシロー、つまんないです」
「待って?今の会話のなかに、僕が悪いところってあったかな?」
どう考えたって、自分に非はないと思う。
しかしアズはそんな灯志郎をそっちのけで、話を進めてしまう。
「私は……トーシロー、お前を」
ジッ、と。
その深すぎる光を宿した瞳で灯志郎を見つめながら、彼女は目的を、口にする。
「私は……トーシロー、お前を守るためにやってきたです」
感謝すると良いです、などと賜い、まな板同然の胸を張るアズ。
「…………」
いやもう、本気でどこから突っ込めば良いのかと、困惑を通り越して呆れに至る灯志郎。
頭の中に、疑問は尽きない。
なんで悪魔に守られなくちゃいけないのか、とか。
悪魔とはいえ、女の子に守られるってどうよ、とか。
そもそも、僕を守ると言うけれど……僕を、何から守るつもりなんだ、とか。
それはもう、疑問は溢れてとめどない。
そんな灯志郎の現状を察したのか、アズはため息を吐いて。
「ハァ……仕方ないですね、トーシロー……説明してあげるから、ちゃんと聞くです」
やはり尊大に、そう言い放った。
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