第一章……実界とユングと灯志郎

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――曰く、この世界には魔法が実在する。 否、魔法を司る種族が、存在している。 それは例えば、『ゴブリン』や『レッドキャップ』に代表される『妖精』に始まり、『天使』、『悪魔』、その他多岐に渡る。 しかし彼らは、この世界の人間と接触する事はあまりない。 ……正確には、接触できる機会がない。 彼らは、この世界――便宜上『実界』と呼ぶ――と同じ世界に住んでいながら、しかし致命的なまでに、ズレた世界に住んでいる。 そのズレた世界を、実界に対応する言葉として『ユング』と呼ぶ。 これはとある言語では『重なる』という言葉を意味し、実に的を射た表現なのだ。 ユングと呼ばれる複数の世界は、実界に重なるように存在している。 あくまで概念的な話であって、より砕いた言葉にするのであれば周波数を用いるといい。 『ヒト』という動物は、一定以上の、あるいは、一定以下の周波数を認識することはできない。 しかしその周波数を聞き取って生活している動物もいる。 ――ソレと同じ。 この世界は、いくつもの世界が重なって層を成している。 ただし、人間は実界しか認識できず、天使であればユングの中の『天界』、悪魔であれば『魔界』しか認識できない。 その感覚は、テレビに似ているとアズは言う。 成程、道理だ。 テレビは、今自分が合わせているチャンネルの番組しか見ることができない。 しかし、見ることはできないが、違うチャンネルには違う番組が存在しているのだ。 それが世界であれば、チャンネルを変えられないだけの話。 チャンネルを変えられない以上、人間は『実界』という番組しか見ることができない。 しかし、もしも仮に……仮にではあるが、人間がチャンネルを変えられるとするのであれば……そこには確かに、『ユング』という多数のチャンネルが存在しているのだ。 「……ここまでは着いてきてますか、トーシロー?」 「ま、まあ、何とか……」 正直、理解はできるが実感が湧かないというのが本音だが。
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