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場所は路地裏。
晴れてるには晴れてるが、空から今にも雪が降ってきそうなほどに寒い日の午後である。
俺とそれに他2名は、屋根の上から、そのやり取りを眺めていた。
少女が男に言っている。
「なあ、男よ。お前、情けなくはないのか? 玩具の銃など持って、人様の物を強引に奪って。親御が見たら泣くぞ」
「す、すびばせん……」
路上で倒れ伏している男は、さきほど浴びた電撃により滑舌が怪しくなりながらも、頭上から説教してくる少女に謝っていた。
灰色の髪を冬の風に靡かせている女の子の片手に、一つのハンドバックがぶら下がっているのだが、それは実を言うと彼女のものじゃなく、男が何処かの奥様から強引に奪い取った物を、さらに女の子が取り返した成り行きの末であった。
つまりは引ったくり。
ついでに男は銃を持っていて、街中に戦慄を走らせたが、なんてことはない玩具の銃というオチ。
今日も今日とてアホな事件。
されどもその少女――つーか他人行儀は終了して魔王セイ=アラキスは、事件の大小に関係なく、いつも真剣だった。
今日もである。
「お前も良い歳だろう? そろそろ定職に付いて、安定した暮らしを送りたいとは思わんのか」
「お、おぼ、おぼいます……」
ハッタリの銃を威嚇に警団を巻こうとしていた強奪犯に魔術の電流を浴びせて、それからもうかれこれ十分近くも説教している。
後半から犯人も、ほぼ涙声になっていた。
「う……う、ど、どこにも、雇ってもらえ、なくて……」
「そうかそうか」と魔王「つらかったのだな。でも、不正はいかんぞ。一度甘えると、どんどんそっちへ流されてしまうからな」
「うう、ずみまぜん」
その時になって、俺と同じ屋根、隣にいたハールムゥトがおもむろに眼帯を付けた横顔を下方に向ける。
そしてセイに声をかけた。
「セイさん、そろそろ警団が近づいてます」
セイは眠たい無表情で仰ぐと、彼女に頷く。
「うむ、わかった」
そして再び、感電している男へ顔を下げ、
「このバッグはここに置いていく。良いか、お前も罪を洗って、まっとうな生活を送るのだぞ」
ふわり、と浮遊の魔術を扱った少女の足元が地面から浮く。そして、
「それから、」
最後に言う。
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