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「顔も匂いも一緒なんですけど。でも、瞳が、ぜんぜん違うんですよ」
そこまで断言されてしまうと、さすがに相手も観念したらしい。
「あー。やっぱ、わかっちゃうもんなの?」
《オレ》がそういうと、ハルは優しい感じで微笑んで、頷いた。
「はい、わかっちゃいます。右眼だけは、自信がありますから」
な? 俺が自分の視力を自慢にできない理由がわかっただろ。ハルは、ああいう奴なのである。
ただ、ハルから敵意を感じられないことを、相手は好都合と受け止めたらしい。すぐには態度を豹変させず、まずは世間体の良い感じで切り出していた。
「まいったな。さすがはハールムゥトと言いますか。ちょっとした事情でさ、今は本物のクロンと体を交換中なんだ。まあ、魔導の一種なんだよ。オレも困ってんだ」
ほとんどの基礎が俺と同じとは思えないほど、頭の良い野郎だな。厳密に言えばまったく事実とは異なる虚偽であるが、《ありえそうな》理由であるし、咄嗟に悪意を隠したことで、ハルたちが事情説明を求めるように仕向けたのだろう。そうやって奴は、相手に隙を作るつもりなのだ。
俺は無意識に体をよじってることに気が付いた。きっとオルフェにとっては、根と擦れて体に傷がついてしまうし、それは非常に悪い思うけど、でも俺はなんとかして自由になりたい。
ずる賢い《クロン》が、この上ハルにまで何かしようとしたら、俺の精神はいったいどうなってしまう。俺は必死に身をよじる。
だ、け、ど。
この先からは、俺も驚くしかないような態度をハルは見せることになる。
まず相手の偽った告白を、彼女は特に何も疑った様子もなく、笑顔のままで首を落とした。
「そうだったんですか」
「そうなんだよ」
「じゃあ、本物のクロンさんは何処なんですか?」
「それがな、わからないから俺も困ってて。こっちに戻ってきてる可能性もあったからオレも見にきたんだ。本当はよ、この問題はオレだけで解決するつもりだったから、お前らにも言うつもりはなかったんだよ。混乱するだろ? まさか一目でわかっちゃうなんて、ビックリしたぜ」
言い訳スキルを極めたように、全ての事実を知る俺の耳にも違和感が無い言葉の陳列、《クロン》は流暢に終えてみせた。あの口の上手さだけは逆輸入してやってもいいかなって思うほどだ。
ハルは、
「なるほど、わかりました」
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