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今日もこの自殺屋にひとりの男が訪ねて来た。
歳の頃は40代後半から50代前半、ガックリと肩を落とした猫背で、萎(しお)れたポロシャツの上にしょぼくれた背広のジャケットを羽織り、妻には逃げられ、高校生になる息子は引きこもり…まるで、あてなき旅路に疲れ果てた様子だった。
“カラン……コロン…‥”
ドアに付いているカウベルが気弱に鳴る。
男は生きる勇気も、死ぬ勇気も無いかの様に、静かに扉を開け、店内を見渡した。
店内は薄暗く、正面のカウンター席に7~8席、その奥の棚には埃を被った洋酒のボトルが並び、左側のスペースには3つ程のテーブル席がある。
やはり、昔のバーか何かをそのまま使っているようだった。
カウベルの音を聞いた店主が奥からゆっくりと現れた。
「ぁ、あの…」
『へい、らっしゃい!!』
「え?!」
男は自分で訪ねて来たのにも関わらず、自殺屋のその陽気な掛け声に驚きを隠しきれなかった。
『自殺屋』と言うから、てっきり陰気でダークなイメージを勝手に持っていたのであろう。
『いらっしゃいっ!』
「あの~」
『死にたいんでしょ?』
「ぁ、ぇ…」
この店では当たり前の問い掛けにも戸惑っていた。
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