第2幕

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今日もこの自殺屋にひとりの男が訪ねて来た。 歳の頃は40代後半から50代前半、ガックリと肩を落とした猫背で、萎(しお)れたポロシャツの上にしょぼくれた背広のジャケットを羽織り、妻には逃げられ、高校生になる息子は引きこもり…まるで、あてなき旅路に疲れ果てた様子だった。 “カラン……コロン…‥” ドアに付いているカウベルが気弱に鳴る。 男は生きる勇気も、死ぬ勇気も無いかの様に、静かに扉を開け、店内を見渡した。 店内は薄暗く、正面のカウンター席に7~8席、その奥の棚には埃を被った洋酒のボトルが並び、左側のスペースには3つ程のテーブル席がある。 やはり、昔のバーか何かをそのまま使っているようだった。 カウベルの音を聞いた店主が奥からゆっくりと現れた。 「ぁ、あの…」 『へい、らっしゃい!!』 「え?!」 男は自分で訪ねて来たのにも関わらず、自殺屋のその陽気な掛け声に驚きを隠しきれなかった。 『自殺屋』と言うから、てっきり陰気でダークなイメージを勝手に持っていたのであろう。 『いらっしゃいっ!』 「あの~」 『死にたいんでしょ?』 「ぁ、ぇ…」 この店では当たり前の問い掛けにも戸惑っていた。
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