赤い夜は永く

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蒼井ちゃんに誉めて貰えなかったあたしは、背中を落として待機部屋へ戻り 隅っこの方で宿題をしていた。 心の平和を護るには 1つのことを考え込まないのがコツだ。 蒼井ちゃんのこと、美咲婆さんのこと、母さんのこと。 あたしは一心不乱に方程式を解いていた。 ガチャ。 待機部屋のドアが開いた。 体育座りで膝の上に下敷きとプリントを乗せていたあたしは、顔だけドアに向けた。 「…おはようございます」 頼りない挨拶をし、柔らかそうな黒い髪の毛の女の子が部屋に入ってきた。 前髪は目の上で揃えられ、化粧っ気も無いので相当若く見える。 可愛らしいぱっちりした二重の目に低い鼻、 丸顔。 これは清純ロリ担当だな、と勝手に想像する。 「…おはようございます」 あたしは頭だけ一応ペコリと下げた。 そういえば先週の木曜日に面接に来てたっけ。 名前は… 確か… 「…えっと… なつ…」 「ぁ!な、なつき、夏葵ですっ!」 この女には苛められる事は無いだろうと、あたしは思った。 「あ、あのっ…!今日から宜しくお願いします…っ!」 ご丁寧に三指ついて挨拶をされた。 「アヤ子です。宜しくお願いします。」 あたしはまたプリントに目をやる。 2週間一度位のペースでこういうことが有る。 特別気を遣わないのがあたしの処世術だ。 「失礼しまーす…」 小さく言うと、所在無さげにちゃぶ台の前の座布団に夏葵は座った。 待機部屋に沈黙が漂う。 あたしは沈黙が一番落ち着く。
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