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夏葵はキョロキョロ部屋を見渡して、一通り何があるのか把握すると、また 話しかけてきた。
「いつから働いてらっしゃるんですか?」
面倒臭いけれど返事をする。
「…五年前からです」
誤解を与える発言だけど
質問の答えとして間違ってはいない。
「え!そんなに!」
夏葵はわざとらしく口に手を当てて驚いた。
「…スタッフとして、ですけど」
スタッフっていうか
あれなんだけど。
「あ、そうなんですかぁ~」
うんうん、と夏葵は頷いた。
少しの沈黙。
「何してるんですか?」
それを夏葵が消し去る。
「…宿題です。」
私は頭が良くないので、喋りながら計算なんてできないのに。
途中まで書いた解を全部消してまた1から問題を解く。
「え?学生さん?高校生?」
夏葵の口調がタメ口になったのをあたしは感じた。
「…中3です。」
「えっ見えない~!最近の子は大人っぽいねぇ!」
「はぁ…」
「って事は…15歳?」
「まだ14です」
尚も夏葵のお喋りは止まらない。
「わたしは18歳、なんかほっとしたぁ~」
親近感を抱かれた。
「ねぇ宿題そんなへんじゃやりにくいでしょ?ここでしたら?」
確かにちゃぶ台が有るのに部屋の隅で宿題をする姿は不思議に思うだろう。
でも理由が有るのだ。
「…ありがとうございます、でも…お姉さんが使うから…」
あたしは竜宮城で一番肩身の狭い人間なのだ。
「大丈夫だってー!まだ誰もいないし!」
「でも…」
「たくさん場所空いてるじゃない☆」
こういう時あたしはどうしていいかわからない。
とりあえずお礼をして夏葵の目の前に座った。
「これ数学?方程式かぁーうわーなつかしぃ~」
夏葵が正面からプリントを覗き込んでくる。
「あっここはマイナスだよ☆」
友達と呼べる友達も居ないあたしには、夏葵は少々うざったい。
「うんうん、そうそう!」
あたしは夏葵の声など無視することに決め込んだ。
「あたしねー、高校受けなかったんだー。
その時付き合ってた男ん家に逃げてさー。
妊娠してさー。
産む気だったんだけど…
男すごいDVでさー、…ひどいよね。
仕舞いには借金だけ残して消えちゃって。
私働いた事もないし…。
不安で引き込もってたんだー。
したら大家さんが家賃払えーって。」
夏葵は独り言のように続けた。
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