赤い夜は永く

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『プルルル プルルルッ はぃ春奈ちゃん、春奈ちゃん。お客様がお見えになりましたぁ~』 7時10分頃、 待機部屋のインターホンから店長の声が響く。 深みのある声に独特のイントネーションが特徴的。 「はぁい」 母さんはインターホンに向かって返事をする。 『すぐいけますかぁ~?』 「大丈夫ですよー」 『はぃお願いします~…プツッ』 母さんは読みかけの雑誌をラックに仕舞うと、スキップでもするようにひらりと歩いた。 白い膝丈のパフスリーブになったAラインのワンピースも ひらりと揺れた。 童顔の母さんには良く似合っている。 婆さんみたいに濃い化粧をしなくても 充分絵になっている。 フワフワの栗毛を遊ばせて 「いってきます」 と部屋を出る。 「おかせぎなさーい」 あたしたちは声を揃えて母さんを送り出す。 一人調子の外れた挨拶をしたのは 夏葵で間違いないだろう。 それから5分後、さらに15分後、その10分後に インターホンが鳴り、とお姉さん達が仕事に出てゆく。 一人、また一人と仕事に行く度 部屋の空気は重くなる。 母さんの次に客についたのは麗華さんで、 黒いロングドレスに黒髪をクチバシクリップでねじってアップにしていた。 まるで銀座のクラブのキャストみたい。 …銀座のクラブの人なんて見た事ないけど。 「いってきます」と言った時の麗華さんの顔は 明らかに勝ち誇ったかのような微笑みを浮かべていた。 その次は、主婦の片手間に週一出勤でお小遣い稼ぎ感覚で働いている愛子さん。 ふくよかで愛嬌はいいのに、噂好きのお喋りが玉に傷…。 一応母さんのグループ。 またその次が、現役女子大生が売りの電波系・亜紀さん。 的を射ているようないないような…突拍子も無い言動が目立つ、 華奢で病弱そうで儚い感じの婆グループ。 『プルルル プルルルッ』 またコールが鳴る。 皆が耳をそばだてるのがわかる。 『えー、瑠璃ちゃん瑠璃ちゃん、お仕事です~』 …麗華さんグループの派手な女の人。 ブルーのシャドウも濃い色の口紅も真っ赤なロングドレスもどこか下品。 肉体美は凄いけれど…やっぱり下品だ。 「はぁ~い、いってきまぁ~す」 香水の匂いを漂わせ、瑠璃さんは振り返らずドアをすり抜けた。 「おかせぎなさーい」 待機室はまた、あたしと夏葵と美咲婆さんになってしまった。
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