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竜宮城の朝は遅い。
あたしはまず階段を三階まで駆け上がり、10号室で眠る母親を起こす。
「朝です、時間です。春奈さーん」
あたしは10号室の扉をノックしながら言う。
「おはようございます、春奈さーん」
返事は無い。
…いつもの事だ。
靴を脱いで部屋に入り、毛布にくるまっている母親を揺する。
「お母さん、起きて下さい」
意識的に、部屋に二人で居る時あたしはこの人を
お母さんと呼んでいる。
「うるさぁいっぉ母さんなんて呼ばれたってこまぁやぁ~」
母親が『お母さん』と呼ばれるのを嫌がっているのは知っているけれど
どうしても譲れない。
あたしが小さい頃は、母の名前は『優梨さん』だった。
当たり前に、ゆりちゃんって呼んでた。
小学校に通い始め、母親の事を『お母さん』と呼ぶ友達のマネをして、
母に殴られた。
「時間ですよ、起きて」
悲しいとか、怒ってるとかじゃ無いけど
私は強めに母を揺さぶった。
「ん~っもう!起きるからぁ~!」
春奈さんは寝起きが悪い。
いつも酔っ払って寝て、仕事に着くギリギリまで寝ている。
「…予約、入ってるみたいです。頑張って起きて下さい」
一時間後にまた起こしに来ます、と告げ
私は隣の8号室へと向かった。
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