竜宮城の朝

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6号室…美咲さんの部屋の前、あたしは深呼吸した。 「美咲さん、おはようございます」 すると直ぐにドアが開いて美咲さんが現れた。 …しわくちゃの意地悪婆さん。 「ったく。起きてるわよ。そりゃ起きるわよ!毎朝毎朝…うるさいったらっ!」 美咲さん、年は三十代後半で一番の古株。 顔に小じわが目立つ。 髪も艶もない。 昔は美人だったらしいけと…。 今ではしょっちゅうお茶を引いている。 「…」 ヒステリーだし 貯金も無いみたいだし 意地悪だし 態度でかいし ぶりっこだし… 早くクビになって欲しい。 「で?予定はっ?」 予約なんかフリーでも滅多に入らないのに毎回聞かれる。 「今日は美咲の予約は入ってるのかって聞いてんの!!」 「…入ってないです。」 美咲さんは干されているんだと思う。 なのに竜宮城の主みたいな態度が気に入らない。 「だったらゆっくり寝かせてよねっ!アンタと違って朝まで働いてんだからっ!」 私だって起こしたくないし 永遠に目覚めないで欲しい。 カン高い声と共閉められたドアに 「今日もよろしくお願いします」 あたしは一礼する。 そして階段を駆け降り、待機所へ向かう。 美咲さんにはたくさん嫌がらせをされた。 たぶん美咲さんと母さんは仲が悪いから、必要以上に折檻された。 いつか婆さんをこの階段から突き落としてやる。 普段温度の無いあたしの心に 憎しみの炎が灯る瞬間、 不思議と「あたしは生きている」と実感する。
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